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第91号:ビジネスの「安定」と「成長」を混同する危険性

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「シライ先生、最近、周りの動きが変わってきている気がするんですよ・・」こう仰るのは企画業を営むN社長です。

 なんでも、お客様の言葉や反応がどうも以前と変わってきていることを感じているとのこと。打ち合わせの場でも、お客様が「別のことを考えながら会話しているような」感覚を覚えているとのことです。

 業績については、いまのところ顕著な反応は出ていません。しかし何やら先行きの怪しさのようなものを、これまで以上にヒシヒシと感じ始めています。数か月先の受注に対する確信のようなものが、少しずつ揺らいでいるのです。

 そこで、漠然とした霧靄の中でこう考え始めます。受注を増やそう、営業や接待を増やそう、現場スタッフにも次の仕事に繋がる動きをしてもらおう、そしてもっと量を増やして拡大しなければならない――。

 間違いではありません。しかし間違いではないからこそ、それが本当に経営者の望んでいることなのかどうかを、強く問いかける必要があります。なぜなら本当の望みは、「先行きが分からなくなってきたという不安定さに対する、安定基盤が欲しい」だったりするからです。

 「取引が増えること」と「将来に渡って経営が安定すること」は、構造的にも経営者の心情的にも全くの別物です。

 実際、弊社には成長を続けていて売上利益的には問題なく見える社長さんもお越しになります。その理由は、成長することと安定基盤を手に入れることが別物であると、すでに承知なさっているからです。

 本当は「将来的にも資金や業績が安定する未来を確保したい」という安定基盤を望んでいるのに、その解決策が拡大志向になってしまうとどうなるでしょうか。拡大して取引量が増える可能性はあっても、未来への安定感は生まれません。仮に取引量が増えても、いつも綱渡り的な感覚が拭えず、3か月後6か月後のことが分からない、結局は漠然とした不安が離れない――。

 これは決して珍しい話ではありません。重要なのは、未来を見通せる安定基盤が欲しいのか、それとも事業の拡大成長を望んでいるのか、このどちらを今、優先的に得たいと思っているのかを冷静に見つめることです。

 安定基盤を得たいのに、量的拡大の動きを闇雲に増やしても、安定基盤にはなりません。安定基盤を得るには、自社がコントロール可能な、再現性と拡張性を持つ「確率論で回っていくビジネスの仕組み」が必要です。

 受注量を増やすことが重要なのではありません。不確実な中でも「確率的に受注が入る仕組み」や、受注量変動を吸収して、なお、お釣りがくるような「価格決定権の保持」が重要なのです。

 人・モノ・カネ・時間を闇雲に投下することが重要なのではありません。未来に備えたビジネスを設計する習慣、先手対応の習慣が重要なのです。

 売上を追うことが重要なのではありません。未来のあるべき安定基盤を数字構造に落とし込んで可視化し、重要な安定指標を確率的に上げていける意思決定の仕組みが重要なのです。

 この順番を間違えると、頑張れば頑張るほど不安が増えるという、奇妙な逆説に陥っていきます。

 事業を力強く成長させていくために必要な土台は、瞬間的な売る力や作る力、局所的な取り組みの優劣や組織能力にあるのではありません。経営者が未来に対して安心感を得られる、安定的にビジネスが回る基盤が作られているかどうかです。

 N社長が感じている「周りの空気の変化」は、もしかすると拡大の合図ではなく、安定基盤を見直すべき合図なのかもしれません。

 貴方が、今、本当に欲していることはどちらですか。拡大ですか。それとも安定基盤の確立ですか。

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