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第5号:高収益・高賃金社長は、1年先の月末預金残高を見通している

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 「シライさん、お金には全く余裕がありません・・・」
 ある運送業を営むA社長は、資金の話に及んだ途端、急に声のテンションが変わりました。つい先ほどまで、これまでの事業展開やこれからの事業展開について熱く語っていたA社長。
 これまで、他の運送業者では手を付けにくい仕事を積極的に取って行っただけでなく、しっかりと”次につながる”卓越した販売導線を構築してきたおかげで、収益性は決して悪くありません。
 組織も規律が保たれ、意欲に満ちた社員も多く、外から見ればとても”立派な”会社に見えます。

 「お金のことは経理に任せています。ただ、出てくる数字を見てもそれが何のことだかよく分からず・・・売上も利益も出ているようなことは分かるのですが、その割に何で毎月こんなに支払いが苦しいのか、よく分からないのです。」
 意欲的に事業をけん引し、頭を捻って沢山の「業界にはない」やり方を実施してきたA社長。事業家として大変尊敬できる方です。しかし、意外とこのような状況に陥っている優秀な経営者も数多くいるのが実情です。

 このような問題に直面している大きな理由は、長期間に渡って事業を繁栄させていく上で必要な「守りの型」を持っていないことにあります。

 事業経営には「攻め」と「守り」の両方が必要です。
 攻めとは、主に付加価値や売上を作っていく活動です。具体的には商品サービス開発、技術、マーケティング、営業などが該当します。事業そのものが付加価値を世の中に提供するために行われていますから、これらの分野について強力な攻撃力を持っていなければ、事業運営は進んでいきません。強く強固な「攻めの型」を持たない限り、事業繁栄の道はないでしょう。

 一方、攻めの型だけ構築出来ていればいいかというとそうではありません。
 事業経営は長期間に渡って行われるもので、その間に様々な”チャンス”も”危機”も訪れます。そういった大きな変化があった時に、そのチャンスをモノにできるか、あるいは危機を致命傷を負わず脱することができるか、という視点は極めて重要です。

 資金運用の分かりにくさは、「税法で作成が義務付けられた財務諸表には、資金の出入りが記述された書類がない」、というのが大きな理由です。
 貸借対照表は期末段階での資金使途と調達のバランスを示してはいますが、一定期間における資金の増減(収入や支出額)は分からないのです。
 ちなみに、「損益」については損益計算書という書類があるため、1年間で売上と費用がいくらかかったかが分かります。しかし「資金」については損益計算書に該当するような一定期間の収支を示す税務署類がないため、自分たちで作成しなければ分からないのです。

 「いや、シライさん、うちも資金繰り表は簡単なものは作成しているんですが」
 A社長は仰います。拝見した資料には、過去の実績を示す資金繰り実績表があります。また、翌月と翌々月の収支予想をまとめた表があります。
 私はA社長にご提言します。

 そして社長は、この資金繰り計画表を毎月更新して予実対比を始めます。その結果を見ながら、数カ月先までの資金手立てを検討し、意思決定するというサイクルを構築します。
 社長は言います。
「これをもとに毎月実績と対比していけば、お金の出入りがどこで基準と乖離しているかがよく分かりますね。しかも、このまま進んでいくと翌月以降の月末資金がいつ、いくらになりそうなのかもよく分かります」

 社長の言葉を受け、私は付言します。
 「社長もきっと、これから攻めの投資をお考えのことでしょう。投資で大きな資金の動きがあるときは、それを計画表に反映してみてください。投資して売上が上がっても、資金繰り上はキャッシュが厳しくなることがあります。それが手に取るように分かります」
 社長は言います。
 「なるほど、事前に分かっていれば、もっといい手を考えたり準備したり、無鉄砲に投資にお金を費やすことはなくなりますね」

 A社長の守りの型の構築が始まりました。

著:白井康嗣

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