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今週のコラム

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第59号:高価格化していく恐怖の正体と克服法

「シライ先生、さっそく来月から、全ての価格を掛け変えます」

 力強くこう宣言されるのは、サービス/小売業を営むA社長です。A社長と私は、ある資料を手元に置きながらコンサルティングを進めています。その資料に目を落とし、私の助言を聴きながら暫く熟考していたA社長は、おもむろに顔を上げ、そう宣言されたのです。

 1人粗利の最大化において、まず第一かつ絶対的に欠かせない要素は、ウリモノを高価格化することです。どんなご商売をされていても同じです。もし自社のやっているサービスや扱っている商品に自信があれば、なおのことこれは重要なことです。

 A社長も、ご自身の商売には自信を持っています。商品はどれもお客様の欲求を満たすものばかりで、サービスも大変ユニークで特徴的です。それでも「価格を掛け変える」ことにはずっと躊躇し、微々たる値上げに留めています。

 思い切った価格アップに対する恐怖の理由は、至って明快です。「売上が減るかもしれない」と瞬間的に考えるからです。敢えて説明するまでもなく、価格を上げれば客離れを起こして、受注数量が減っていく可能性があるからです。

 価格を上げていくには、その恐怖に打ち勝つ必要があります。「価格アップは、想像ほど怖いものではない」という感覚を持たなければ、価格アップの利点やノウハウを100通り知ったところで、一歩を踏み出すことはできません。

 では、どうすればその一歩を飛び越えられるのか?それは、”極めてロジカルな計算”によって、価格アップの経済合理性を確認することです。

 私とA社長が一緒に眺めていた資料は、まさにその経済合理性を示す”計算の書”です。そこには、”現行収益力の商売を続けた場合”と、”粗利益率を5%上げた場合”の、将来にわたる数字が示されています。

重要な数字1:受注量減少許容割合

 受注量減少許容割合とは、「価格を上げた際に、どの程度売上高が減っても、現在と同水準の粗利益を維持できるか?」を示したものです。

 社長が恐れているのは受注量の減少です。であれば、実際価格アップによってどの程度受注量が減っても問題ないのかを数字で示さなければ、感覚上の恐怖による支配のために、意思決定を誤ることになります。

 A社の場合、価格を15%上げたときに、失っても問題もない受注減少幅は、現受注総量の20%であることが計算により示されています。もし仮に値上げ幅以上に受注数量が減少したとしても、なお値上げ前より儲かる、ということが示されています。

 これは、弊社が指導してきた会社全体を見渡してもだいたい近しい数字になります。元々の粗利率にもよりますが、通常、価格を10%上げた場合、受注量減少許容割合は、10~15%程度になることが最も多いです。要するに、値上げ割合より許容減少割合の方が大きいのです。

 A社のサービス部門においては、この許容減少割合を「サービス提供時間」に換算すると、なんと1.5か月分にも相当します。つまり、仮に1.5か月分の仕事がなくなったとしても、新価格によって利益水準を維持できる、ということです。

 15%の価格アップで20%の顧客が減る可能性を、どうリスク判断するか?それはあなた次第です。しかし、自社が誠実な商売をしてきた、独自価値をしっかりと形にしてきた、受注導線の構築と受注活動をしっかりとやっている、という自負があれば、それほど恐れる数字ではないのではないでしょうか?

重要な数字2:未来の長期月末資金残高

 先ほど、値上げ恐怖の正体は、受注量減少による売上減少と言いましたが、これにはその先があります。それは「お金」です。値上げ恐怖は、「お金が減り、必要な資金が必要な時に不足する恐怖」に繋がっています。

 しかしこれも同様で、もしそれが「感覚上の恐怖」からそう思い込んでいるのであれば、これも誤った意思決定を下してしまうことになります。

 A社長には資金計画表を作って頂きます。それは、価格アップを”しない”場合と、”した”場合の2パターンで作られます。

「資金繰り計画でしたら弊社でも作っていますが・・」A社長は仰います。

 そこで資金繰り計画を拝見すると、そこに書かれているのは「計画表」ではなく、1~2か月程度先の支払い予定を示した「予定表」です。

 もちろん資金繰り”予定”表を作っていることは素晴らしいのですが、残念ながらそれは「社長の意思決定を支える資料」ではありません。それは、経理担当者が経理目線で作った”管理表”です。

 既に決まっている入出金予定を並べた表では、支払い対策はできても、事業の収益構造をどう展開するかという経営判断はできないのです。

 社長に必要な資金計画表とは、目指す売上・単価・粗利益率を実現することによって、毎月の月末資金残高がいくら残るか?を時系列で可視化したものでなければなりません。それも短期間の計画ではダメです。中長期の戦略を描けるものでなければなりません。 

 A社長に作って頂いた資金計画表の期間は、36か月(3年)です。つまり、これから向こう36カ月間の、毎月月末の資金残高がいくらになるかを可視化するのです。

 その結果は、多くの社長に衝撃を与えます。A社長も同様です。A社の場合、価格アップにより受注量が減り、売上増加率0%になったとしても、月末資金残高が6か月後には1.4倍、12か月後には2.4倍の開きが生まれることが分かったのです。しかもそれは運転資金の借入れ無しです。

商売に真面目に向き合っているなら、価格を上げよ

 2つの数字を見たA社長。ご自身がこれまでご商売に掛けてきた思いを内省しながら、沸々と湧いてきた希望と勇気が、冒頭の力強い言葉に現れます。

「こんな道があるとは思いもよりませんでした。」A社長は続けてお話されます。

 価格、利幅を上げていくというのは、既存の感覚値が通じない世界です。創業経営者の多くが持っている「勘」は、時に経営危機を救い、時に経営を飛躍させる魔法のような力を持っています。

 しかし、価格を上げていくことによる経済効果は、これに恒常的に取り組んでいる者でなければ感覚値として分からない、非連続の世界です。

 その世界に入っていくとき、飛び降りる勇気を生み出すのは感覚値でも精神論でもありません。「極めてロジカルな計算による数字の可視化」です。

 あなたが自身の商売を愛しており、真面目に向き合い、ウリモノに誇りを持っているなら、それに見合った価格に付け替え、価値を具現化し、高値受注できる導線を作り、1人粗利に拘る組織を作ってください。弊社は、そのお手伝いをしている唯一の専門機関として、独自のコンサルティングプログラムでクライアントを支えています。

 あなたは、勇気を持って自社の価格、価値に向き合っていますか?

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