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第19号:高付加価値・高賃金事業における、スペシャリストの扱い方

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「シライ先生、スペシャリストの評価はどう考えれば宜しいでしょうか?」木工製品設計製造A社長のご発言です。

「営業と技術部門に、すごく成果を出せる社員がおります。成果を上げてくれるのは有難いのですが、そういう社員はあまりマネジメントに興味がなく、やらせてみると全然機能しないのです。ある程度育った社員には一応マネジャーの肩書を付けているのですが、実態はマネジメントをしていません。難しいのは給与をどうするかということです。管理職と同じように多く出した方がいいのか。。。マネジメントコースとスペシャリストコースのように、人によって行きたい方向を選べるような制度も必要なんでしょうかね?」

 聞けば、そのスペシャリストたちは他の社員の2倍は成果を上げる社員のようで、社長としても頼みの綱としているとのこと。そんな中で、それほど強烈ではないにせよ「俺がいないと会社が回らないだろ」という態度も見え隠れするとか。評価や賃金制度をきちんと整備しているわけではないため、ある程度ファジーな賃金運用を出来ていることが良い意味で幸いしているものの、いつまでもこの状態が続くことに危機感を感じています。

 この問題は様々な視点から考えることができます。評価賃金制度の問題と捉える見方もあれば、キャリアパスの問題と捉える見方もあるでしょう。しかし、高付加価値高賃金事業作りの観点から言えば、本質的な問題は極めてシンプルです。それは、組織が「グロス価値思考になっていない」という事です。

 グロス価値については著書でもお伝えしていますが、付加価値を上げる取り組みを仕組み化して横展開した際の、会社が得られる付加価値の総和です。例えば、優れた営業のやり方を編み出した社員がその方法を体系化し、誰でも活用できる状態にしたとします。これまで1人当たり100の成果だった20人の営業チームは、総和で2000の成果を生んでいます。これが1人150の成果を出せるようになると、総和で3000の成果を生み出すこととなり、1000のグロス価値アップになる、ということです。

 理屈としては非常に単純な話ですから「なんだ、そんなことか」と思う方も多いことでしょう。しかし、実は高付加価値事業を展開する際に大きなネックになるのがここなのです。どういうことかというと、高単価・高付加価値商品サービスを扱う組織は、「この仕事は、個人的特性に依拠した独特の創造性・柔軟性・人間力がないと出来ない」という思い込みに囚われやすいのです。

 すると何が起きるかというと、いわゆる属人化です。高単価高付加価値事業の落とし穴は、そうでない事業に比べて非常に属人化しやすい性質があります。分かりやすい例が伝統産業の世界です。例えば織物、酒、工芸品、楽器、それから日本舞踊や音楽指導などといったサービスもあります。顧客に提供する価値としては大きいのですが、その独自性のせいか「見て盗め」「習得には10年かかる」「感性の世界だからマニュアル化などできない」という、なにやら秘儀めいた世界がそこに存在しているわけです。

「標準化なんてもってのほか!」「我々の技術を何だと思ってるんだ!」その高い技術力ゆえに、標準化に対して物凄い拒絶反応を示すことすらあります。そして「見て盗め」の世界で、石の上にも3年(10年?)の苦労を潜り抜けてきた人たちが、やがて「スペシャリスト」になるのです。

 これが、伝統産業が高単価・高付加価値事業をやっているにも関わらず、平均賃金が上がらない理由です。考え方が極度な個人能力主義なのです。作ることに関しても売ることに関しても、個人という点の話に終始する社風が形成されているのです。こういう社風の会社は、あらゆる業務を点の発想でしか考えられなくなります。

 生産の面で言えば、人に仕事が付いているため担当できる社員が限られていて、折角利幅の大きな仕事があるにも関わらずこれを増産することができない、ということが起こります。その結果、もの凄く利幅の良い仕事に限って外部の技能を持った外注先に出し、大した利幅のない仕事を内製している、という勿体ないことこの上なく、また競争力確保上も大きなリスクを背負うことが頻発します。

 営業の面で言えば、点の発想のため「一本釣り」や「単発施策」という無駄と非効率だらけの活動になります。本来、高単価商品はあらゆる場面でその価値を伝え、見込顧客をプールし、何度でも自社の独自性を一貫して伝えなければ価値を守れません。そのために受注導線を敷いて、営業・販促、場合によっては設計製造部門が連動しながらやっていかなければ価格を維持して売れないのに、連鎖連動という考え方が極端に乏しいためそれができず、運任せの販売にしかなりません。「商談のスペシャリスト」が1人でどうこうできる話ではないのです。

 しかしこれらの問題は、次にあげる問題に比べればまだ可愛げのある問題です。それは、独自価値の競争力、受注力、受注単価が低下してしまうということです。なぜそうなるのか、理由は明快です。全てが我流になり、事業の独自価値がぼやけるからです。1つの事業内に色々な流派が存在しているような状態になるのです。そして独自価値がぼやけるということは、その他の供給業者と事業領域が被ることを意味します。事業領域が被った途端、価格競争が生じるのです。また、各流派の長たちに関連業務担当が翻弄され、無意味な混乱が多発します。

 1つの事業に色々な流派がある、ということは一見尖りが沢山あって良いように見えるかもしれませんが、それは社内からの視点です。顧客が欲しているのは自身の願望成就です。本来的に顧客は担当者そのものに焦点をあてているわけではなく、自分の願望に焦点をあてているのにも関わらず、その期待に応えられる人が他にいない(仕組みがない)から「貴方(スペシャリスト)にお願いしたい」という言葉が出るのです。

「貴方にお願いしたい」と言われれば誰でも嬉しいでしょうし、精神論としてそう言われるように頑張る事を推奨するのは構いませんが、本当に会社として重要になることは願望成就を永続的に叶えられる仕組み作りです。「あなたにお願いしたい」が頻発し、これを勲章のようにぶら下げる組織は、実は危うさを伴っている組織であることを認識する必要があります。

 重要なことは、「事業として」の独自価値を明らかにし、磨きをかけることが第一にある、ということです。個人の限られた範囲の業務について磨きをかけることも勿論大切ではあります。しかし、それら業務は全て事業の幹となる事業コンセプト、主義主張、受注導線を具現化し、太く強く先鋭化していくために行われているものです。我流がはびこって幹と整合性の取れないことをしていたら、市場において独自性を維持していくことはできません。

 ここまで読んでお気づきの方もいるでしょう。実は、高単価・高付加価値商売ほど、組織が持つイメージとは裏腹に、業務を標準化することが絶対に必要なのです。組織全体で独自性を隙なく守り切らなければ、高値を納得して頂きながら量販していく商売は不可能だからです。

「我々の仕事は感性と経験と根気の世界だ!」と言っている社風の中に、グロス価値向上に向けて、業務を標準化していかなければなりません。そのポイントは、経営方針を示した上で反発するスペシャリストたちを巻き込み、協力を依頼することです。そして協力者に対しては、グロス価値を引き上げる有能社員として評価や報酬で報いるのです。

 裏を返せば、スペシャリストという理由、個人成績が良いという理由だけで過大な評価や報酬を用意してはならないということです。高付加価値・高賃金事業において真に評価すべき軸は「グロス価値向上への寄与度」なのです。

「危うく判断を間違えるところでした。グロス価値の重要性は認識しているつもりでしたが、まだ何となくの理解になっていました。一度評価を間違えてしまうとその後が大変なので、ここでスペシャリストからの協力をしっかり考えておこうと思います」

A社長の、独自価値先鋭組織づくりは続きます。

著:白井康嗣

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