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今週のコラム

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第20号:高収益・高賃金事業を実現していく「計画」のあり方

「シライ先生、とてつもなく高い数値目標になるのですね・・・」

 A社長は、これまでの薄利多売型の事業から、高収益且つ高賃金を実現できる高付加価値事業作りに取り組んでいます。冒頭のご発言は、高収益と高賃金を両立するための数値計画をシミュレーションしている中で出てきたものです。それはもはや過去の延長線上にない数字。A社長は得体のしれない不安・驚愕・ワクワクが入り混じった感情を味わっています。

 利益と賃金水準を同時に高めていく計画数値とは、経常利益と1人賃金が所与のものとして与えられている計画になります。計画数値の大前提がこの2つの指標であり、これを実現していくことができる粗利益・売上高水準を設定していくことになります。

 私がA社長に提示した計画数値の条件は、

・経常利益は売上高に対して15%または粗利益に対して25%
・正社員換算した1人平均賃金は800万円

 です。この条件を満たした計画数値を作って頂きました。その結果、必要となる総額人件費・粗利・売上高は、現状を遥かに上回る壁のような数字が出てたのです。これまでも計画は作ってきたA社長ですが、高収益高賃金事業の条件を数字で見せつけられたことで、一体どうしていけばいいか皆目見当もつかない状況、といったところでしょうか。

 世の中には事業計画策定に関する様々な書籍、情報があります。また、計画策定を支援している法人や士業もたくさん存在しています。その中で一般的に言われている”良い計画”のあり方とは、凡そ次のようなものです。

・実績とデータに基づいた計画であること
・外部環境や内部環境を考慮した計画であること
・実施、実現可能な計画であること

 つまり、合理的で現実的で、実現と実施が可能な計画、が良い計画とされています。しかしよく考えてみてください。過去の事実に立脚した合理的で現実的な実行可能な計画は、本当に時間を割いてまで作る価値がある計画でしょうか?

「外部環境分析の結果、我が社の周りではこんな機会と脅威がありますね」

「内部分析の結果、我が社の強みはこれで、弱みはこれですね。弱みは改善していきましょう」

 こうやって、自社の周辺や過去実績や今の強み弱みをあぶり出して均した計画は、間違いなく現状を延長した計画にしかなりません。そんな計画に、何か大きな価値があるのでしょうか?「現状の取組みをもう少し一生懸命やればできる数字」を示した計画策定に、少なくとも忙しい社長が時間を割いて取り組むような価値はあるのでしょうか?

 はっきり申し上げて、こういう計画であれば作っても作らなくても一向に構いません。理由は明快です。今の取組みをもう少し改良したり頑張ったりすれば実現可能だからです。あえて事業計画という大袈裟なものを作らなくても、去年やっていたことをもう少し良くやればいいのです。わざわざ計画として可視化しなくても、それほど意識せずできる数字なのです。

 こういう計画を、外部の専門家の支援を受けたりしながら策定した経験のある社長も多いと思います。そして、これを作り上げたときの社長の所感としては「現状が整理できた」「課題が明確になった」というものが大半だったりします。計画を策定したことで、状況が整理されてスッキリしたり、先の見通しが立った安堵感のようなものを感じられる、というのが大方の感想です。

 そして、計画は「それっきり」になるのです。作ったときのスッキリ感や安堵感とともに、計画書は書棚の奥にしまわれ、それっきり誰の目にも止まることなく安置されることになるのです。当然そうなるに決まっています。過去の延長線上にある予測値計画を作り、会社にインパクトを与えるような変化もなく、気持ち的にもスッキリ安堵したのなら、それ以上計画に目を通す必要などないからです。

 本物の計画、高収益・高賃金を目論む計画とは、これとは真逆の計画です。本物の計画とは、作ったらスッキリ安堵するような気分を味わえるものではありません。本物の計画は、作る社長にストレスを感じさせるのです。非常識とも思える目標値への驚愕、実現の先行きが見通せない不安を感じさせるのです。冒頭A社長の反応は極めて正しい反応であり、優れた計画策定を進めている証拠です。

 収益性と社員年収を両方引き上げる粗利・売上水準は、現状を遥かに超えていく数字になります。どの数字をどういじっても、実現できそうな気がしない数字が出てくるのです。「所与として定められた経常利益率と社員賃金」を基準として、単価を上げたらいいのか、利幅を上げたらいいのか、受注量を増やしたらいいのか、総額人件費を抑えるために社員換算数は何人にしたらいいのか、経費は何に使えば効果的か・・・これから作り上げる事業構造・組織構造を意識しながら、そういうシミュレーションを何度もしていくのです。

 そんな苦悩の末に「これだったら、ひょっとしたら実現できるかもしれない!」という、かすかな希望の光を見出す計画にたどり着くのです。もはやそこには、「過去の実績やデータ・会社の弱みを克服・実現可能性」などといった概念は存在しないのです。そこにあるのは”過去からの予測数字”ではなく、”経営者の意志により決定された数字”なのです。

 現状の枠組みを取り払い、思考の枠を外し、頭脳をフル回転させていく・・・そのための健全なストレスが必要です。現状の延長というぬるま湯の中で思考した計画など、作るだけ時間の無駄です。これまでの延長線上にない、一体どう実現したらいいか分からない目標を達成するための計画こそ必要なのです。

 こうして苦心して作り上げた計画は、絶対に書棚にしまい込まれることなどありません。いつも頭の片隅に計画がこびりつき、我が社が計画をどれだけ遂行しているのか、計画の見直しは必要ではないか、と気になって仕方がなくなるのです。

「A社長、大変と仰りながら顔色が宜しいようで」私が言うと、「そうなんです、大変ですが、何か突破口が見つかりそうです」とお答えになるA社長。A社長の計画策定は続きます。

 あなたは、過去の延長やこれまでの制約の外にあるチャレンジングな計画を持っていますか?思考の枠を外し、頭をフル回転させていますか?

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