第22号:人時付加価値の最大化を実現していく、人間臭さを前提とした仕組みづくり

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「シライ先生、弊社でも業務の流れややり方を標準化していき、全体の付加価値の底上げをしていきたいと思います」製造販売業を営むA社長とのご発言です。A社長は続けます。
「実は、以前も同じようなことを試みたことがあります。しかしその時は結局仕組みが定着せず、また今のような状態に戻ってしまった経験があります。仕組み化が重要ということは分かっているのですが、それを進めていくイメージが掴めません」
A社長の思いは至極もっともなことです。A社長も、営業のやり方や製造・修理のやり方について標準化を試みたことがあります。社長の音頭のもと、管理職がこの標準化を進め、商談業務・予約業務・修理工程といった仕事について、人時付加価値を大きく高めていける再現性のあるやり方を構築しようとしていきました。
しかし問題が発生します。誰もその標準マニュアルを使おうとしないのです。せっかく作成した標準書・動画マニュアルといったノウハウの蓄積物は、書棚の奥にしまわれ、フォルダの階層奥深くに格納されています。社長や一部の管理職はその活用を一生懸命促します。しかしその声はなかなか届きません。やがて組織の中には、標準書を作ったこと自体にも批判の声が出始めます。
「あの作成にあてた時間は一体何だったんだろう?」
「我々の仕事は標準化なんかできる仕事じゃない」
そうして時間の経過とともに元の状態に戻り、過去と変わらない仕事の付加価値に留まる、ということが起きています。
このようになってしまうのは、そもそも仕組みを作る意味を正しく理解していないことから生じます。では、仕組みを作らなければならない理由とは何か?それは人の基本的な性質として「安きに流れ・変化を拒み・楽観視し・自分を優先する」という「人間臭さ」があるからに他なりません。人は誰でも、そのような傾向を多分に持っている生き物です。組織は凡そ、そのような人間臭さを持った人間の集まりであると言って差し支えありません。
「そんな人間ばかりとは限らないし、少なくとも自分はそうじゃない」という社長もいらっしゃるでしょう。もちろん、中には素晴らしい資質を備えた人間というのもいるかもしれません。しかし大変言葉は悪いですが、「理念が浸透しない」「標準化が進まない」「社員に主体性がない」ということを言っている時点で、社長本人も多分に「人間臭さ」を持った人間である証左なのです。
なぜなら「理念を強調すれば理念通りに動いてくれるだろう」「マニュアルを作れば標準化が進むだろう」「権限移譲すれば主体的になって成果を出すだろう」という、楽観的な期待と自分の感覚を優先した考えが現れているからです。会社でもっとも主体的かつ責任にコミットしている我々社長ですら、このような楽観的で自己優先的で、これだけやればなんとかなるだろうという安きに流れる考えを持つのですから、組織づくりは人間臭さを前提に進めなければならないのです。
重要なことは、「標準書やマニュアルを作っても、これが運用されない可能性は多分にある」と考えることです。運用をしていく仕組み、いわば仕組みを動かしていく仕組みというものが組織になければ、方針書も実施計画も損益計画もマニュアルも、ただ単に情報が整理されているだけの紙の束になってしまうのです。
マニュアルを作っても活用されない―人間臭さを前提に考えれば、マニュアルを実践で活用していくようにするには、「業務前に」「意識に上がり」「見てポイントを理解し」「実行できる」ための仕組みがなければなりません。これら1つ1つの行動を促せる仕組みがあって初めてマニュアルは生きたものになります。それぞれの要素に対し、どんな仕掛けを用意すればマニュアルが活用されるのかを考え、その流れ自体をルールとして設計していくのです。
修理部門の社員が業務前にマニュアルが意識に上がり、見てポイントを理解し、実行できるようにするためには、少なくともマニュアルがオフィスに置いてあったりパソコンのフォルダ奥深くにあっては何にもなりません。手元の作業スペースになければなりませんし、事前確認しなければ前に進めない仕掛けを作っておくことが必要です。
一方で営業部門の商談機能であれば、そのマニュアルを実施するスキルを事前に手に入れておくためには、業務計画や案件進捗が事前に組み上げられていなければならず、これを上司が共有している状態でなければなりません。商談に行ってから「結果はこうでした」では付加価値を落としてしまうのです。商談に行く前にマニュアルを確認しながら案件の進度を上げていく作戦を練ったうえで、商談の練習をしてからでないと営業に出られない仕掛けを作っておくことが必要になります。
これは業務マニュアルに限った話ではなく、マネジメント全体に関わる話になります。例えば会議です。会議が有効に実施できない理由は様々ですが、もっとも大きな原因は「関係者が集まれば何かプラスになることがあるだろう」という期待に立脚した運営にあります。
だから多くの会社では、会議に関する方針とマニュアルがないのです。会議は多くの人と時間を投入する場です。そこで生み出すべき人時付加価値を考えれば、「会議の目的・生み出すべき付加価値額・時間・参加者・運営フロー・議題の要素・会議前準備・会議後フロー」というものが標準化されているべきです。
人を雇用するということに関しても同様です。「社員を雇って少し教育すれば、あとは臨機応変にやってくれるだろう」という期待や、もっと根本的な部分で言えば「うちの会社には良い人材が来てくれるだろう」という期待が多分に働いていたりします。だから、いざ求人票を書くときになると他所の会社でも同じことを書けそうな求人票を書いたり、社員の長期的なキャリアプランや能力開発計画なしに人を採用して後で後悔してしまう、ということが起きるのです。
「どこか、仕組みの中で動くのは社員、という感覚がありましたが、私自身が実務としてやるマネジメントも仕組みにしないとならないのですね」A社長はご発言されます。まさにご発言のとおりで、管理職や社長自身の実務領域についても仕組みを作り上げることは絶対に必須になるのです。
あなたは、仕組みを動かしていくための仕組みをどれだけ構築していますか?その仕組みは人時付加価値を高めていくことを目標としていますか?