第39号:高付加価値事業作りに向けて組織を動かす「決断」のあり方

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「シライ先生、以前、他のコンサルタントと仕事をしている時に、計画を紙に書いて発表するように言われました。」サービス業を営むA社長のお言葉です。私は続きをお伺いします。
「でも実際やろうと思うと出来なかったのです。もともと社員と距離感があるものですから、いきなり経営計画を発表しても、余計に強い反発を生むのではないかと。。。」
A社は複数店舗を展開するサービス事業を10年程度続けています。しかしどの店舗も社長が思ったような成果を生み出せていません。1人当たり年間粗利は650万円程度で、人件費や家賃を引いた店舗別利益率1~5%、これに本部共通費が引かれて全社経常利益は2%に満たない状態です。
その構造的原因は明らかです。表面的には「サービス価格の低下」と「集客力の弱さ」があり、その根本には「方針不一致」と「付加価値づくりの習慣の欠如」があるからです。
複数店舗を運営しようとする会社が最初に陥る罠は、「自分と同じようにできるだろう」という根も葉もない根拠に基づいて店舗運営を人に任せていることです。しかも無意識レベルでこのような楽観的考えが生じているため、当人でもそれに気が付いていないケースが多いのです。
採用者であれば「同郷」「同じ大学出身」「大企業出身」「面接時の誠実そうな応対」、既存社員であれば「真面目な仕事態度」「やる気とガッツがある」「個人成績を上げている」・・・そういった社員を目の当たりにすると、「この人ならきっと店舗の運営を任せられるだろう」という期待を抱いてしまうのです。
これは多店舗展開に限った話ではなく、社長が社にいない時間帯の運営や、目の届かない部門の運営などに置き換えて頂いても、同じことが言えます。
しかし多くの社長が実感しているように、社長が思うような動きをする運営責任者というのはそうそういるものではありません。理由は単純です。「他人は他人であって社長である貴方ではないから」です。
「何を当たり前なことを」という声が聞こえてきます。しかし裏を返せば、この当たり前が全ての前提なのです。社長と社員は決して同じ夢を見ていません。同じ情報を持っていません。同じ責任を持っていません。雇用契約で結ばれた労使関係であることだけが、全ての前提であり事実です。
何もかもが社長と違う社員に、店舗や部門運営任せることが事業運営です。またそこまで大きな話でなくとも、日常の顧客対応やサービス提供、モノづくりといったことだって、その何もかもが違う社員に任せているわけです。そしてその任せた人たちの生み出した付加価値の総和が、会社の儲けを決めているのです。
そうした事実を鑑みて、貴方はこう言うかもしれません。「優秀な人材を採用できたら」「あいつは理解力と能力がない」「もっと主体的に臨機応変にやってほしい」。しかし大変言葉は悪いですが、そうしたご発言は、「自社の命運は社長本人ではなく社員に掛かっている」と自ら公言しているのようなものです。言い方を変えれば、「自社の手綱は社員が握っている」と自ら公言しているのと同じなのです。
これは、市場・顧客との関係においてもそうです。「もっと景気がよくなれば」「あの取引先から嫌われたくない」・・・そうした思いも、構造的には自社の手綱を他者に握らせているのと同じです。
何を選択するかは自由ですが、もし付加価値の高い本当に豊かな経営を目指すのであれば、それを決意している社長の決定こそが全ての起点になるということです。製品サービスをより高付加価値にし、1人粗利を最大化していくという決断です。
なぜなら、社長以外にそれを本気で臨む人は他に誰一人としていないからです。取引先はもちろん、社員にしても、労苦を引き換えにしてでも豊かで尊敬される我が社を作りたいと(現時点で)願っているわけではないからです。
経営の目標・方針・計画を書いて示すということは、社長の決定を示すということに他なりません。決定事項になっているからこそ、社員にはそれを守る義務が生じるのです。それが組織という構造体が持つ仕組みです。社長が物事を決定し、これを社員が実施する関係というのは、感情論や信頼関係以前に、組織という構造体の基本なのです。
なぜなら、組織はサービスやモノの提供を通じて社会に奉仕するという絶対的使命があるからです。その使命を果たすのに適した組織構造体を築き、維持し、発展させることが、外部に対する絶大な信頼に繋がっていくからです。
感情で動く組織というのは、外部に対しても感情で動くことになります。個の感覚、個の考えで動くことになります。それは気まぐれであり、十人十色という名のバラツキであり、ムラとムダです。そんな組織が市場に対してイニシアチブを取り、価格決定権を握り、1人で何倍もの付加価値を稼ぐ仕事を実現できるはずがありません。
もし、社長が社員との感情的な摩擦を恐れて決定事項を下さないのであれば、また、本当に高付加価値事業を作り上げるという決意そのものを示さなければ、社員も同じように「感情を優先」し、「重要な実施を先延ばしして日々を同じ繰り返しの中で生きる」ことを選択します。
感情は「配慮」するものであれど、高付加価値経営構造の樹立に先んじるものではありません。「感情」に対峙するのではなく、「高付加価値事業構造づくり」に対峙するのです。「社員の動き」に対峙するのではなく、「社長自らの決定」に対峙するのです。
これが実現した時にはじめて組織全体の向かう方向が一致します。感情や個人の感覚ではなく、あるべき姿に沿った方向に動かす準備を整えることができます。社長の決意を紙に書いて発表するというのは、ほかならぬ事業の主導権を社長の手中に握り、自らが構想する高付加価値事業を作り上げていく行動を組織に埋め込む第1歩にして最重要事項なのです。
これによって「決定と実施」という基本構造が植え付けられ、組織には行動の統一と継続、そして成長に向けたスパイラルをまわす土台が形成されます。これにより、望ましい行動の習慣化、人時付加価値を高めていく改善提案、そして社員自らが高みを目指したくなる仕組みの構築という上物を形成していくことが可能となります。
その後、経営方針を発表したA社長は、反発というよりも協力者が幾人か現れたことに手ごたえを感じています。そうです、社長の明確な決定を待っている社員もいるのです。仕事に意義と利益を見出し、より社会に奉仕しながら自らの生産性を上げ、豊かになりたいと願っている社員もいるのです。その起点はA社長の決定にあったのです。
貴方は、自らの決定を文書として明確にし、社員に伝えていますか?その決定事項の実現にどの程度の拘りを持っていますか?