第61号:組織作りと人作りは、似て非なるもの
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「シライ先生、何をするにしても”ヒト”がネックなんです」
こうお話するのは教育事業を営むA社長。大変ユニークな教育メソッドを武器に、施設数を増やして拡大してきました。
A社長自身がこの教育メソッドの実施者であり、その指導は顧客からの信頼と尊敬を集めています。はじめは1つの施設から始まったA社も、今は5つの施設を展開するまで成長しています。
そんなA社長が私と面談していた時のこと。話の途中で、A社長の電話が鳴ります。電話に出られたA社長は口頭で業務指示を出しています。スタッフの1人からの電話のようです。
電話が終わり面談を続けていると、しばらくしてまた電話がなります。今度は何やらトラブルの相談のようです。5分ほど続いた電話を切り、再度面談を進めます。
するとまたA社長の電話が鳴り出します。結局2時間の面談中、4~5回の電話が鳴りました。
冒頭のA社長のご発言が示すことの一角が、この面談の中にも露呈しています。A社長のもとには、電話やメール、アプリを通じて現場からの沢山の問い合わせや相談が入ってきます。
全てを合計すると、毎日50は下らない量だと言います。A社長が教育者としてサービスを提供している時間も、経営者として外出したり会議をしている時間も、1人で内省や計画を練っている時間にも、多くの情報がA社長の元に流れ続けます。
教育事業を営むA社長は、ご自身が教育のプロであるだけに、人の教育には拘りを持っています。当然、ビジネスでは優秀な人材を確保できることは大きな優位性に繋がります。ですからA社長も人を育成するために、様々な手段を講じてきています。
部門別やサービス別の数多の会議、それ以外にも階層別研修があり、社員が集合する会議や研修は月に10以上あります。
そこでは事例発表から始まり、管理者に対するリーダーシップやマネジメント研修、教育法の指導、そして理念研修といったものが展開されています。
しかし組織の実態としては、離職者が後を絶たない、新規採用がしにくい、施設ごとの業績に大きなバラツキがある、そして、社長が現場からの対応に忙殺されており将来の事を考える余力がない、ということが起きています。
施設を増やしたことによる借入の返済は続いています。A社長が担当する施設だけは群を抜いて好業績を収めるも、施設単体利益を上げられない施設のキャッシュアウトが資金繰りをひっ迫させます。
本来は更なる拡大を目指したいのに、いつの間にか経営の照準が“目先のキャッシュをどうするか”ということに充てられています。
そのお金の心配と人の問題が、A社長の頭の中心を占めています。
組織作りと人作りの違い
A社に起きていたこと―それを一言で言えば「組織作り」と「人作り」の混同です。言い方を変えると、「組織づくりとは人材を育成すること」と考えてしまった結果です。
組織作りとは、複数の人々が協業するための土台=仕組みを作るということです。この土台が形成された上に、人材育成という施策が乗り、初めて人作りが可能となります。
では「人々が協業するための土台=仕組みづくり」とは具体的に何をすることか?それは「プログラム」と「ヒエラルキー」を作ることです。組織作りとは、この二つの仕組みを作り上げることに他なりません。
「プログラム」と「ヒエラルキー」
プログラムとは、業務の流れ、業務間の流れ、情報の流れ、行動の流れ、お金の流れなどを標準化することです。そしてヒエラルキーとは日本語で階層を意味し、縦の役割分担を定義することです。
標準化することには、2つの意味があります。1つは仕事の品質を安定させることです。これによって、人による仕事のバラツキが抑えられるとともに、人は成果に繋がる良いやり方を早期に習得できるようになり、売上・コスト・利益の改善が進みます。
しかし実はこれ以上にもう1つの意味の方が重要な役割を果たします。それは、ヒエラルキーを遡上していく情報(例外事項・相談事項・問い合わせなど)が、標準化の程度が進めば進むほど減っていく、ということです。
言い方を変えれば、現場で現場の判断で適切に実施できることが増え、経営層が現場の判断業務から解放されていくということです。
業務には、必ず例外や工夫が必要となる場面が現れます。1つの業務をとっても、そこには定型的にこなせることもあれば、判断や感情を使うことが必要となることもあります。
業務の標準化が全く進んでいない場合、現場では人それぞれが違うやり方をします。そして分からないことがあった場合に自力で確認する術がないため、それを上司(中小企業であればそれが社長のことも沢山ある)に確認しなければ進まなくなります。
一方で業務の標準化が進むと、現場では標準化されていることについては標準化されている通りに行えます。分からないことがあっても、標準化された基準書等を見れば自分で遂行することができます。
部門間や階層間の報連相や情報処理、コミュニケーションについても、業務が円滑に回る経路とルールが決まっていれば、例外事項以外については現場でシステマチックに処理を進行できます。良い意味で「感情や人間性」を挟む余地が少ないため、摩擦や衝突が減ります。
しかし先ほど説明したように、業務には標準化されたプログラムだけでは対処しきれない事項が発生します。そういう例外事項についてのみ、相談という形でヒエラルキーを遡上し上司に届きます。
この状態になっていると、各階層が担わなければならない本来の付加価値業務に集中する時間と環境を手に入れられます。当然のことながら、経営者や管理職がその立場でしかできない仕事に取り組む時間がなくなれば、会社の業績に悪影響を及ぼします。
「組織作り」があって「人作り」は活きる
極めて単純で当たり前なことに聞こえると思います。しかしこのプログラム化とヒエラルキー化こそ、人の問題に頭を悩ませる会社の根底に巣食っている問題であることに気が付かないことが多いのです。
あなたが普段、社員からの問い合わせや相談、あるいは行動を見ていて
「それくらいの事は自分で考えてやってほしい」
「何でそういう判断・行動になるの?」
「それ、前から言ってるよね?」
と感じることが多くあれば、それは「人作りの問題」ではなく「組織作りの問題」です。
ここで考えて頂きたいのは、自社がどれだけ「組織作り」に取り組んできたかということです。組織作りとはすなわち、プログラム化とヒエラルキー化です。
具体的に言えば、業務を洗い出し、成果に繋がるやり方やルールを可視化しているか?ルールが定着するチェック機能を運用しているか?階層別の役割遂行状況を評価する機能を運用しているか?ということです。
華も特効性もなさそうな、何とも言えない地味で泥臭い仕事です。崇高な理念や人間教育、専門教育のような、人を奮い立たせるような高揚感など微塵もないではありませんか。
しかしこれが組織という協業体の土台なのです。この土台の上に人作りが乗り、土台に立脚したうえでの能力開花が行われていくのです。
複数人の協業体は、全てがこの立て付けになっています。国と個人の関係もそうです。法律・制度・インフラという行動を規定する仕組みのうえに、個人が自由に生活し、個別分野で能力を発揮しています。
そういう土台の部分は、普段は目に見えません。しかし意識していないだけであって確かに存在し、我々の行動をあるべき方向に規定しています。
逆に言えば、正しい組織作りのノウハウさえ分かっていれば、自社の専門性を応用してユニークな人作りが可能になります。まず組織作りがあり、その次に人作りをするという順番が大事なのです。
あなたは、「組織作り」に取り組んでいますか?