第76号:現場情報から「現場改善」するのは社員の仕事。社長の仕事は、現場情報をもとに「事業改革」を進めること
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「シライ先生、私は毎日現場に出ているので、こういう“数字でギリギリと詰められる時間”は大切です」小売業を営むN社長のお言葉です。
突然のご発言に、弊社としては一瞬「?」が付く思いでした。しかしお話を伺うと、これは弊社のコンサルティングに対する率直なご感想でした。
日々の業務では、どうしても現場対応に追われます。顧客対応、商品管理、スタッフ指導など、目の前の課題が次々と押し寄せます。そのような中で、数値資料を前にしながら収益構造を徹底的に詰めていく時間は、普段の視点を強制的に「事業視点」に引き上げてくれるものだという意味合いでした。
現場に立つこと自体は非常に重要です。そこには現状の問題だけでなく、未来に繋がるヒントが数多く存在しています。顧客の声、社員の動き、商品の動き、業務の流れ。どれも事業の実態を示す重要な情報です。
しかし、その現場を見た結果として、社長自身が現場改善の担当者になってしまうのであれば、それは極めて勿体ない状態です。社長の視点が「作業改善」に固定されてしまうと、会社の進む方向を描く仕事に時間が使えなくなります。
社長の役割は、現場情報を基に現場改善を行うことではありません。もちろん社長が現場改善に関わること自体は問題ありません。しかし、それだけでは会社のステージは変わりません。社長にしかできない仕事があります。
それは、「事業改革し、成長させること」です。どの市場を狙うのか、どの顧客に価値を届けるのか、収益構造をどう書き換えるのか、仕組みをどう書き換えるか。この問いに向き合えるのは、社長だけです。
現場改善と事業づくりは、似ているようで本質的に異なります。現場に存在するのは「業務」です。業務とは、事業を成立させるために組織内部で行われる活動の集合です。しかし業務そのものは事業ではありません。
一方、事業とは、独自の価値を顧客に提供し、その対価として収益を生み出す仕組みのことです。どんな顧客に、どんな価値を、いくらで提供し、どのような収益構造を作るのか。この仕組みを設計し続けることこそが事業づくりです。
現場改善とは、その大きな構造の内部で品質を高めたり、納期を短縮したり、効率を高めたりする工夫です。業務手順の改善、人材育成、配置転換、工程管理などが該当します。これらはもちろん重要ですし、管理職や現場社員が主体的に取り組むべき領域です。会社が日々の顧客満足を維持するためには、現場改善は欠かせません。
しかし、それだけでは会社のステージは変わりません。いくら現場を改善しても、そもそもの収益構造が弱ければ、利益は大きく伸びません。会社がより高い利幅を生み出し、社長の描く長期構想に近づくためには、現場情報を拾い上げ、それを「事業づくり」に活かす必要があります。
事業づくりとは、現場の情報を材料に、収益構造を問い直すことです。例えば、
- どの顧客が時間当たり粗利を最も生み出しているのか?
- なぜその案件は高値で受注できるのか?何が自社の独自価値になっているのか?
- 粗利の低い案件を半分まで減らした場合、利益と資金はどうなるのか?
- それによって浮いた稼働時間に、粗利2倍の仕事を入れたら利益と金はどうなるか?
- 工程の人員をゼロにする投資をしたら、投資対効果は何カ月で効いてくるか?
N社長の冒頭のご発言は、まさにこの視点転換を指しています。日々の現場視点から離れ、数字を用いて収益構造を俯瞰する時間。そこでは、事業の見方が大きく変わります。
重要なのは、数字を単なる結果報告として使うのではなく、未来を切り開く意思決定の道具として使うことです。数字は、保守的な判断のためではなく、大胆な判断のために存在します。
社長が現場に出ること、社員と話すこと、顧客と話すことは極めて重要です。しかし、その情報をどう使うのかが決定的に重要です。現場改善に使うのか、それとも事業づくりに使うのか?・・
その使い方によって、会社の成長速度は大きく変わります。現場を見ることは大切ですが、現場に留まる必要はありません。社長は、現場の上に立ち、事業の未来を設計する存在なのです。