第36号:売上増加に反比例して1人粗利が低下していく、最も重大な要因

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「シライ先生、増やせば増やすほど厳しくなります」
こう仰るのは教育関連事業を営むA社長。セミナー後の個別コンサルティング時に出てきたご発言です。1施設からはじまったA社は、独自の魅力あふれるサービスのおかげで人気となり、10年かけて6施設まで拡大してきました。
よそにはない独特のサービスは利用者からも魅力的であり、稼働率は高く、施設によっては待ちが出ているところもあります。ところがA社は大きな問題を抱えています。
施設数が増えています。それに応じて売上高も増えています。しかしそれと反比例するように純利益は低下し続け、直近ではかつて1施設で運営していた頃の水準を下回っています。さらに、離職率は30%の大台を超えるまでに増えています。
私はA社長に現状をお伺いします。同時に内部資料を拝見します。現状を語るA社長は決してネガティブではなく、丁寧にお話されています。しかしそこでのA社長のご発言に気になることがあり、私は慎重に対話を続けます。
「当社は集客できますので、人を確保さえできればいくらでも施設を出して、伸ばせます」A社長は繰り返し口に出されます。これまで10年間で7施設をコンスタントに出してきたA社長です。これからも施設を増やしていくという思いを強く持たれた上でのご発言であり、それはA社長の信念とも言えます。ここでA社長は、その信念を持ちつつ「何か大きな見落としをしているのでは?」と思い、当社のセミナーに参加されました。
経営に正解はありませんし、何を良しとするかは全て社長の自由です。お店や施設を増やしていき事業を大きくしていくというのは、私も魅力ある選択だと思いますし、何よりロマンがあります。
しかしA社長が勘づいたように、ある重要なことを見落としていると、拡大する度に「資金・人・時間」の問題に直面し、その度に疲弊していき、努力しているはずなのに結果は逆方向に動いてしまうということが起こります。
売上こそ伸びているものの、利益率が低下する、資金繰りが厳しくなる、人が定着せず育たなくなる、施設ごとの人時付加価値がバラつく・・・その背景にある最も重要な見落としとは、「構造化」という発想です。構造とは「ある成果に繋がる要素とその組み合わさり方」を指します。
構造をゴルフに例えて説明しましょう。例えば、「ドライバーショットでまっすぐ飛ばす」という成果は、構え方・バックスイングの軌道・手首の角度・体重移動・インパクトのタイミング・フォロースルーの方向・・といった複数の「要素」と「その組み合わさり方」によって成り立ちます。このように、「どの要素がどう関係してスイングの成果が生まれるか」が見えている状態こそが「構造化された状態」です。
ゴルフが得意な方はこのスイングの構造を理解している方です。理解しているからこそ、不調な時にどこに原因があるかが分かり改善できます。一方で、ゴルフ初心者はこの構造が見えていないため、闇雲にスイングを繰り返して上手く飛ばない、ということが起きます。
事業運営もこれと全く同じです。売上を上げていくための「構造」が存在するし、組織を上手に回していくための「構造」があります。同様に、提供している独自のウリやサービスにおいても確実に「構造」があるし、資金繰りを回していくための「構造」が存在します。
このような構造を生み出す「構造化」と反対の状態を「属人化」と言います。構造が見えていない状態というのは、やっている人が自分の感覚で物事を進めている状態で、しかもその進め方を人に説明することが出来ません。すると「長年の経験」「センス」「人間性」といった極めて個人の属人的な要素で物事が進んでいくことになります。
社長1人、あるいは少数で運営しているうちはこれでも問題ないのです。なぜなら社長1人の属人性だけで事業を回せる規模だからです。A社の例で言えば、かつては売上こそ今の数分の1しかありませんでしたが、役員報酬は今とそれほど変わらず、純利益は今より大きかったのです。それは社長の属人的な力だけで事業全ての範囲をカバーすることができていたからです。独自サービスの提供も、社員のマネジメントも教育も、資金繰りも、すべて社長の範疇の中で完結していたからです。
ところが、施設数が徐々に増えていくうちに、会社は社長の属人性が及ぶ範囲を超えて大きくなっていきます。社長が編み出した独自サービスも、部下の育て方も、業務の回し方も、施設運営のノウハウも、属人性が及ぶ範囲外には影響を与えられなくなっています。なぜならそういったノウハウが「構造化」されていないため、社長以外の誰も「再現すること」ができないからです。
そして社長の目が届く範囲だけは良い業績を上げられますが、範囲外の施設については収入減、コスト高、非効率を招き、増収減益という結果になるのです。
先ほどのゴルフの例で言えば、「構え方・バックスイングの軌道・手首の角度・体重移動・インパクトのタイミング・フォロースルーの方向」という要素そのものに抜けがあったり、順番が違うということを認識できなければ、いくら指導を重ねても安定したスイングはできません。
「管理職や社員とはしょっちゅう会議をしているし、指導もしているつもりですが・・・」A社長は仰います。たしかに会議の数は多く、指導のための研修も実施しています。特に会議体に至っては、階層別会議、施設別会議、サービス別会議などが山のようにあり、社長は毎日会議に出席しています。
しかしA社長の中には「これだけの事をしているにもかかわらず、なぜ良くない方向に行ってしまうのか」という思いがあります。その正体を確認するためセミナーに来られたA社長は、そこではじめて「自分は構造に対してではなく、働く人の意欲や能力に意識を向けていた」ことに気が付かれます。
厄介なことに、構造は目には見えないものです。普段我々が目にすることが出来るのは、ヒトやカネやモノのはたらきです。一方で、それらを効果的に再現性を持って裏側で動かしているものが構造です。したがって、構造という存在はそもそも気付かれにくいという性質を持っています。そして目に見えやすい「人・カネ」といったもののはたらきに目が行ってしまうことになります。
取り組んできた数々のことが「裏側にある構造づくり」というベクトルに向いていなかったがために、社長の思いやノウハウが伝わる土台がなかったのです。上手くいく構造的パターンを見つけ、可視化し、面展開できるようにするという発想こそ、A社長が見落としていた事業運営の肝です。
構造という土台がないところで会議や研修を実施しても、それは「何となく良いことを聞いた」で終わる場に過ぎません。あるいは、社長としては常に同じ考えのもとで教育や主張をしていても、土台が組織に無いがために、「やるべきことが毎回変わる」「言っていることが前と違う」「結局社長の機嫌次第だ」という間違った解釈を生んでしまうことさえあります。
構造が埋め込まれていない状態で人を増やしていくということは、人を効果的に動かす再現性という土台を持たないまま、「人の能力や意欲」というバラつきが生じやすい要素に事業成果を委ねてしまうことになりかねません。社長の持つ力を各施設と人に移植していくには、上手くいくノウハウを構造化し、その中で教育訓練を実施する、という順を間違えてはなりません。
私はA社長に、構造とは何か、それはA社長が取り組んできたことと何が違うのか、具体的に何をすることなのか、構造化の注意点は何かを改めてご説明します。お話を聞いたA社長は仰います。「自分がやってきたことが間違っていたわけではなく、そのやってきたことを構造化に繋げられればいいわけですね」
そうです。A社長がやってきたこと自体は間違いではないのです。拡大にあたって必要となる「やってきたことの構造化」が足りていなかったのです。A社にとってはじめてとなる、構造作りを中心とした事業運営が始まりました。
著:白井康嗣