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第3号:高収益・高賃金化を実現していく社長の時間軸

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 「シライさん、あと社員を3名確保できれば、月商2000万円は伸ばせるはずなんです。特に今の時期は忙しくて孫の手も借りたいくらい人が足りない。もう少し人がいれば売上を増やすことができるのですが・・。」

 精密加工を淡々とこなす工場は、工場とは思えぬほどの静けさに包まれています。宝飾関係製造会社社長と私は、社員の邪魔にならないよう息を潜めながら工場内をぐるっと一周回り、工場を歩いて抜けた先にある会議室で話を始めます。聞けば、ちょうど今はピーク時真っ只中のようで、仕事の依頼はバンバン入ってくるのにそれを捌き切れておらず、売上ロスが発生しているとのこと。社長からしたらいかにも「勿体ない話」です。

 私は気になる事を確認します。
 「今は立て込んでいる月かと思いますが、年間通じてこのようにパンクするのはどれくらいの期間なのですか?」
 社長は答えます。
 「そうですね、ピークは3か月です。あとは並がありますが、だいたいピークの1/3~2/3程度の仕事量になりますね。」

 商売は常に変動しています。季節性が大きく年間での販管需要差が大きかったり、顧客の購買タイミングが重なってしまう商売もあります。また売上的には通年均等化している商売でも、販売促進企画や商品企画など定期的な事業強化のための内部活動に波があります。
  折しも今がちょうどピークの時期ということもあり、多忙極まっていることや、毎日目に見えて売上が増幅していく場にいることの高揚感などもあるのでしょう。現場でも混乱が生じており、色々な”不満の声”が社長の耳に入っている頃合いです。今の社長にとっては人の確保が最大の課題であると考えるのも、状況を考えれば無理もありません。そして、ここで一気に稼ぐべく生産販売量を確保するために資源を投入したい=人を投入したい、というのが大方の経営者の考えだったりします。

 しかしながら、こと高収益・高賃金を目指す会社としては、この考えを続ける限り達成は難しくなります。理由は明快です。繁忙期に合わせた資源量(人員数)は、閑散期に重荷となって収益力を低下させるからです。
 「もちろん、閑散期のことも一応考えてはいますよ。」社長はお話されます。社長も長く経営しています。閑散期の売上が増えれば利益も増えていくことは分かっています。しかし、実はここに大きな問題が隠れています。

 それは「課題の優先順位付け」です。経営ではいくつもの課題を抱えているのが普通です。今回の場合、人材確保の課題と閑散期対応という2つの課題があるわけですが、「閑散期のことも”一応は”考えている」という言葉通り、社長の中では人材確保の課題の優先順位が高いようです。

 しかし、繁忙期に人を増やしても、閑散期(実に9か月間)の売上に対して何ら手を打てていなければ、よほど繁忙期である3か月間に売上を伸ばさない限り、利益はせいぜい微増か、多くの場合減益するのが相場です。言うまでもなく、9か月間は売上が変わらないにもかかわらず固定経費である人件費が増えるからです。

 社長自身の思考が月単位か年単位のどちらよりかを簡単にチェックできる方法があります。それは、「普段数字について口にする時、月単位と年単位、どちらの数字を言うことが多いか?」です。
 思考が月単位の社長の多くは、売上や人件費の水準を話す時に月商ベースで話をします。一方、思考が年単位の社長は、それらを話す時に年商ベースで話をします。特に、「売上・利益をどれくらい増やしたいか?」を考える時に、この傾向が強く出ます。

 年単位で思考すると、優先順位を間違えません。まず、年間で収益構造がどうなっているか?収益の流れはどうなっているのか?と大きく俯瞰したうえで、それを月単位に分解して考えるという発想になるため、先ほどの「閑散期対策」と「人材確保」という課題についてロジカルに優先順位付けをすることが出来ます。
 年単位思考だからこそ、新たな顧客開拓、新しい商品サービス作りといった「緊急ではないが腰を据えて取り組むべき重要なこと」をどう実現していくかを計画することができます。毎月の業績に一喜一憂することもありません。絶えず先を見据えて様々な対策オプションを仕込んでおくことができます。

 社長には月次試算表を1年分お持ち頂きました。そしてその内容をもとに、「これから先1年分の収益計画を立てること」に取り組んで頂きました。これまで毎月の数字を追っていた社長にとって、はじめて未来を具体化する取り組みです。数字の組み立て方は、コンサルティングの中で理解しています。しかしこれまでは「一応の」理解でした。実際に思考を切り替えなければならない状況になった今、社長は言います。
 「あの時は正直、数字を作るなんて数合わせぐらいに思っていましたけど、こうやって作っていくと、これまでいかに優先順位を間違えていたかがよく分かりますね。」 

 それ以降、多忙極まる繁忙期において、毎日必ずデスクに向かい、未来と向き合う時間を作っている社長。管理者から高収益経営者への変革が始まりました。

著:白井康嗣

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