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第7号:高収益・高賃金社長が知る、価格改定の本当の意味

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「シライさん、ご指導いただいた通り、サービス単価の値上げに踏み切りました」理美容事業をチェーン展開するA社長のお話です。

 これまでも世の中の物価や人件費の高騰に合わせて若干値上げをしてきたA社長ですが、ここにきて1割強の思い切った値上げに踏み切ったとのこと。社長は続けてお話されます。

「本当に変わりましたね、お客様の質が。お陰で、従業員が変なストレスにさらされることも少なくなりましたよ」

 粗利は『利幅×回転率』で決まります。端的に言えば、利幅とは価格のことであり、回転率とは客数のことです。粗利を増やしていくためにはこの2要素を高めていけばいい、ということは誰もが理解していることではあります。

 しかし多くの場合において、業績を良くしていくために客数側をどうにかしていこうという考えにとらわれ過ぎています。もちろん客数を増やしていくことは”絶対に”必要なことです。新規顧客獲得に積極的でない会社(紹介やリピートだけでやっている会社)は、必ずどこかの段階で頭打ちになります。しかしここで考えなければならないことがあります。それは、

 価格とは価値の裏返しです。価値は価格に現れ、価格は価値を表します。我々は価格を見て、その商品サービスの価値の大きさを自動的に想像します。

 特にA社長のような比較対象となる競合が多い事業の場合、その傾向は顕著になります。Web上で様々な比較情報を簡単に入手できるようになっている今、”価格によって価値を推定する”、”価格によって自分の願望嗜好とのマッチ度合いを推定する”、という傾向は強くなっていきます。

 もちろん、それが本当に価値の大きさに見合った価格かどうかは分かりません。人の外見と内面が一致するかと言えばそうではないのと同じです。しかしこの「値付け」によって、自社が増やしていくべきお客様への訴求力を高め、逆に望まないお客様の流入を予防することに繋がるのです。

 これを考えず、ただやみくもにお客様を増やしていこうとすると、少ない利幅を稼ぐために馬車馬のように稼働する、そして常に人が足りていない、という商売スパイラルに入ってしまいます。

 また、様々な顧客が入ってくることで、顧客の要望が多様化します。自社にとってプラスの要望だけでなく、方針に沿わない要望も増え出します。その結果1人当たりサービス品質・対応時間に大きなバラツキが生まれ、更なる利幅と効率低下を招きます。

 従業員も多くのイレギュラーケースに日々翻弄されることになります。方針外の無茶な要求に応えなくてはならず、それがストレスに繋がり、やりがいや活力を徐々に奪っていきます。現場全体に疲労感と混乱が広がっていきます。これでは高収益・高賃金事業をつくるどころか、日々の現場を回し続けること自体に支障が生じることになります。

 価格を変え、サービスを変えていくと、それまでのお客様の中から一定数、離反する層が現れます。しかし我々が真剣に対象とするお客様のことを考え、彼らの願望を叶えるサービスを提供しているならば、離反するお客様以上に収益をもたらす新しいお客様を呼び込むことができます。

 多くの場合、値上げした直後は売上利益が低下します。既存顧客の離反を招き、新規流入が少ないためです。しかし適正に価格を改定できたのであれば、その後に値上げ前の業績を上回ってくる傾向にあります。

 理由は明快です。新しい価格に価値を感じてくれる新しい客層が入り込んでくること、それに加えて、一度離反したお客様の中から出戻りするお客様が現れるからです。離反したお客様も競合のサービスを利用した結果、それまで得ていた満足を得られずに戻ってくるのです。これはお客様が「自身の本当の願望や価値観に気が付いた」ことを意味します。これによって、事業とお客様は更なる強い絆で結ばれることになります。

 A社長は恐怖を乗り越え、大きな値上げに踏み切りました。そして冒頭の言葉通り、高い利幅の高品質サービスを、それを求めるお客様層に提供することで、組織も健全な状態を保っています。

 A社長は続けます。「価格改定に踏み切ったことで、社内には今までにない強い責任感と緊張感が生まれました。筋の良いお客様に喜んで頂くために、皆必死で技術を磨きあったり、外部研修に参加する人もいます」

 A社長の挑戦は続きます。

著:白井康嗣

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