第110号:実装の制約が小さくなるほど、社長の構想力が問われる――「第3の経営資源」AIがもたらす可能性と危機

「シライ先生、私の妻はそれほど業務に詳しいわけではありませんが・・・これからはあまり問題なさそうですね」こう仰るのは、不動産業を営むI社長です。スタイリッシュな自社物件の一角にある会議室で、I社長は大きな笑い声と共に喜々としています。
いきなり話が逸れますが、先日弊社で、長く事業で使ってきたクラウド型の会計ソフトを解約しました。別に不満があったわけではありません。日々の記帳から税務申告まで、そつなくこなしてくれる優秀なソフトです。
実は、ここ1年ほどのあいだに、労務ソフトと顧客管理ソフトも解約しています。給与計算も顧客管理も、何の問題もなく回っていました。それでも、基幹システムのうち3つを手放したのです。
その理由は、良くも悪くも話題に上がるAIです。
近頃は、AIが世界をどう変えるのか、情報漏洩は大丈夫か、といった話が大きくクローズアップされています。開発を緩めた方がいい、いや規制を強めるべきだと、様々な議論が出ています。我々にも関係のない話ではありませんし、それはそれで大事なことです。
しかし、「AI開発の話」と「我々にとってのAI活用の話」は別物です。
開発をめぐる議論にどんな意見があろうとも、それが中小ビジネスという文脈におけるAI活用を縛るものではありません。ハッキリ申し上げれば、「AIを使うべきか?」という問いは、我々中小企業にとって、もはや意味を持たないのです。
問うべきは、「AIという道具で、いかに我々の価値を増幅していくか?」です。ここに至らなければ、気が付いた時には会社の何かがおかしくなっている、という状況になりかねません。
なぜなら、根幹レベルでの行動の変化が、すでに現実に起き始めているからです。弊社が基幹システムを手放したのも、その一つです。
これらに共通するのは、これまで外に頼むか、予算等の制約で諦めるしかなかったことが、自社の手の内でできるようになっている、ということです。
さて、冒頭のI社も、これまで会計ソフトで記帳を行っていました。それ自体は何の問題もありません。ところが、I社長が意思決定するための数字が、そこから何も出てこないのです。
今月の損益はいくらか、という数字は出てきます。しかしその数字が、どう考えても、社長自身が感じている「お金の余裕度」と合わない。数字を作っていきたいのに、目の前の数字は肌感覚とずれている。一体この数字の羅列に何の意味があるのか、と困惑してしまうのです。
肝心な「社長の欲しい数字」が見えてこない理由は明快です。会計ソフトの主たる役割は、記帳と税務申告だからです。それに必要な数字をまとめることが、ソフトの仕事なのです。
そもそも、汎用的なソフトをそのまま使っても、社長が欲しい数字を得ることは絶対にできません。一社一社で、事業と業務の立て付けが異なるからです。
同じ不動産業でも、賃貸管理と売買では、何が重要な数字かが違います。売買の中でも、仕入れて販売するのか、仲介なのかで違います。同じ事業をやっていても、「何で勝負するのか?」、品質なのか、利便性なのか、カスタマイズ性なのか、専門性なのか、が違えば、社長にとって重要な数字は異なるのです。
汎用品は便利です。しかし裏を返せば、汎用的なモデルに自社の業務と判断を合わせなければなりません。すると、たしかに税務計算というソフトの目的は旗されど、結局は社長にとって「肝心な何かが欠けている、かゆいところに手が届かない」ということになるのです。
コンサルティングも中盤に差し掛かり、I社長は、自社にとって重要な数字は何か、それがいつ、どのような形で示されれば間違いのない判断を繰り出せるのかを、設計していきます。
そして、自分にとって意味のある数字を見せてくれる「独自の経営管理システム」を、AIで構築していきます。
冒頭のご発言は、その仕組みが動き出した時のものです。「数字が見えないから、経理担当をさらに雇うべきか」という悩みは、そこで消えました。I社長には、余裕が生まれたのです。
ここで目を向けていただきたいのは、この仕組みの中身を決めたのが、I社長ご自身だということです。何が自社にとって重要な数字で、それをいつ、どんな形で見れば判断を誤らないのか。その構想があったからこそ、AIはそれを形にできたのです。
AIの恩恵は、「自社の基準に、仕組みの側を合わせることができる」点にあります。そして、その自社の基準とは、言い換えれば社長の構想そのものです。
自社にとって意味のある数字を得るための仕組み。自社にとって意味のある情報を作り出すための仕組み。自社にとって最適な判断を可能にする情報を得るための仕組み。社長の構想さえあれば、これらを僅かばかりのコストと時間で構築できるのです。
社長の仕事は、事業の方向を定め、資源を用いてその仕組み作りを先導することです。そこには、「判断と決定」という思考のフェーズと、それを「実装する」という実施のフェーズがあります。この両輪が回って、はじめて成果が出ます。
これまで実施のフェーズでは、組織を動かす、あるいはシステムや設備に投資するという、経営資源のうち「人とお金」を動かすことが大部分でした。そこで様々な摩擦が生じます。人が思い通りに動かない。お金が足りない。
すると、何が起きるか。社長は、実装できる範囲の中で構想するようになります。人がいないから、この手は打てない。お金がかかるから、この仕組みは諦める。実装の制約が、知らず知らずのうちに構想の上限を決めてきたのです。
ところが、AIは「人やお金に働いてもらわなければならない」という前提を変えつつあります。人やお金の代わりに、AIに動いてもらう。いわば「第3の経営資源としてのAI」になりつつあるのです。
AIは決して万能ではありません。野放しでも人の代わりに付加価値を作ってくれるような都合の良い道具ではありません。何をAIに任せて何を手放してはならないか?人とAIの分業はどう設計するか?は重要な課題です。
しかし、「構想に基づく実装」に際しては、確実に大きな恩恵を与えます。そして、実装の制約が小さくなれば、構想の上限が外れます。
実装にかかる「単価」と「時間」は、革命的に減っています。I社長はじめ、コンサルティングを通じて生み出した厚利安定戦略の実装にAIを活用することで、その成果をこれまでの2倍、3倍のスピードで生み出すことも不可能ではありません。これまで「いつかやりたい」と棚に上げてきた構想の多くが、いま手の届くところに来ているのです。
しかし、この変化には裏側があります。
実装の制約が大きかった時代は、どの会社も同じように制約を受けていました。構想に差があっても、実装できる範囲は似たり寄ったりで、成果の差はそれほど開かなかったのです。
その制約が小さくなれば、成果の差を決めるのは構想の差になります。何を実現したいのか。どんな仕組みで稼ぎ、どんな数字構造で会社を守るのか。それを描けている会社は、描いた分だけ、実現できることを増やしていきます。
一方で、これまでの経営の延長線上にとどまる会社は、自社が何一つ悪くなっていなくとも、相対的に後退していきます。周りが実現できることを淡々と増やしていく中で、自社だけが同じ場所に立っているからです。これまで実現できなかったことが実現できる時代に、実現できることを増やそうとしない。それ自体が、後退を意味するのです。
弊社は以前から、「設計8割・実施2割」とお伝えしてきました。成果が偶然ではなく構造的に上がる会社は、実働に先立つ設計にこそ力を注いでいる、ということです。そして実装の制約が小さくなった今、この8割の重みは、これまで以上に増しています。
だからこそ、社長は戦略と仕組みの構想に、もっと多くの時間を割かねばなりません。
独自性をウリモノに昇華させる
高粗利で確率的に売れ続ける仕組みを構想する
未来の資金不安を解消するための数字構造と管理体制を構想する
組織が独自性に漸進的変化を加え続け、いつでも付加価値に見合う価格を主導的に提示できる流れを構想する――
そして、その実装スピードを獲得するために、AIを活用するのです。
弊社は、高単価で回る、ゆとりある厚利安定事業作りに必要な戦略と実務をご指導しながら、その効果を最大化するための、「実装と実行スピード」を獲得する仕組み作りまでご指導しています。
あなたは、これまでの実装の制約の内側で、構想を小さくまとめてしまっていませんか。それとも、実現できることが広がった今、自社の構想そのものを大きく描き直しているでしょうか。
著:白井康嗣
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