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今週のコラム

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第105号:既存顧客への高価格化をどう進めていくか?

「シライ先生、弊社には古くからのお客様も沢山います。今後新たな顧客層の取り込みが必要なので、製品を仕様変更して値上げしていきたいのですが、一方の馴染みの顧客を考えるとどうしたものか、悩んでいます。」こうおっしゃるのはA社長です。

 多くの経営者が一度は突き当たる悩みです。しかし問題の本質は、値上げの切り出し方にはありません。既存顧客との関係そのものが、長いあいだ止まっていることにあるのです。

 既存顧客との関係において本当に怖いのは、互いに変化しない状態が長く続き、価値も関係性も停滞してしまうことです。

 顧客は、色々な意味で安定を求めます。一定以上の満足を感じているなら、なおさらです。いつもの製品、いつものサービス、いつものやりとり、そしていつもの価格で、これからも提供し続けてほしい。それが馴染みのお客様の偽らざる本音でしょう。

 ですから、自社が変わるということは、たとえ自社が良しと信じる変化であっても、ある意味で顧客の期待通りではないことをしていくことになります。

 だからこそ、既存顧客である程度の収益が立つと、多くの会社は変化をやめてしまうのです。わざわざ波風を立てる必要がないからです。

 こうお伝えすると、「いや、うちの会社も日々改善を重ねている。変化をやめてなどいない」という声が、聞こえてくるようです。

 確かに、現場の改善や工夫を怠らない会社は多いでしょう。しかし、ここで申し上げている変化とは、社内の小さな改善の積み重ねではありません。

 問題は、その変化が顧客との関係に及んでいるかどうかです。どれだけ社内で工夫を重ねても、顧客の手元に届くものが「今までと同じものを、同じ価格で」であれば、顧客との関係は何一つ変わっていないのです。

 しかし、経済環境は変化し続けます。原材料も人件費も上がり、事業を維持するために価格を見直さざるを得ない時が必ず来ます。その時、何年も「いつもの」を続けてきた関係が、重しのようにのしかかるのです。

 では、どうすればよいか。日頃から「漸進的変化」を起こし続けることです。

 漸進的変化とは、改善や効率化を続けながら、顧客との関係を固定化させないために、商品・サービス・提案そのものを変化させ続けることです。

 顧客が受け取れる価値に少しずつ変化を加える。違った切り口から自社のウリモノを紹介する。顧客のニーズに先回りして、新しい上位提案を行う。そして、その変化を顧客にも提示し続けるのです。

 自ら変化を作り、顧客を少しずつ変化させ、顧客との関係を更新し続けていく。そうしてはじめて、「今までと同じものを同じ価格で提供する」という関係から脱することができます。

 これを日頃から起こしている会社にとって、仕様変更や値上げは「突然の出来事」ではありません。「いつもの提案の延長線」になるのです。

 とはいえ、関係を更新する努力だけで、値上げの恐怖が消えるわけではありません。恐怖の正体は、「お客様が離れて、売上が減るかもしれない」ということに他ならないからです。

 そこで必要になるのが、許容販売減少率の計算です。許容販売減少率とは、価格を上げた際に、どの程度販売量が減っても、現在と同水準の粗利益を維持できるか?を示したものです。

 粗利率40%の製品で考えてみます。100円で売っていた製品の粗利は40円です。これを10%値上げして110円にすれば、原価が変わらない限り、粗利は50円になります。

 では、販売量がどこまで減ったら、粗利の総額が元の水準に戻ってしまうのか。計算すると、答えは20%です。10%の値上げに対して、2割のお客様が離れても、粗利益は1円も減らないのです。

 値上げ幅よりも、許容できる減少幅のほうがずっと大きい。これが計算の示す事実です。

 それでも不安は残ります。「もし2割以上離れたら?」「減った分を取り戻すまで、会社はもつのか?」という不安です。

 この不安に答えるのが、資金残高を所与とした販売計画と利益計画です。まず、確保すべき現預金水準を先に置きます。そのうえで、販売量が減った場合の粗利と資金の推移を、月単位で可視化していくのです。

 そうすると、たとえ許容販売減少率を超えて販売量が落ち込んだとしても、必要な現預金水準を割り込むまでに、どれだけの期間の余裕があるのかが明らかになります。実際に計算してみると、その余裕は社長が想像している以上に大きいことが少なくありません。

 その期間こそ、新しい顧客層を取り込むために与えられた猶予期間です。恐怖の対象だった「減少」が、計画の中で管理できる「時間」に置き換わるのです。

 恐怖は、見えないものに対して生まれます。どこまで減っても大丈夫か。いつまでなら耐えられるか。この二つが数字構造として可視化されていれば、値上げの決断は、度胸ではなく計算で下せるようになります。

 もう一つ、直視すべきことがあります。ある程度顧客を整理しなければ、望む新しい顧客は入ってこない、ということです。

 中小企業のリソースは限られています。収益性の低い製品や顧客でリソースの大半が埋まっている状態で、収益性の高い製品や顧客を入れていこうとしたら、どうなるでしょうか。

 そこにあるのは混乱であり、中途半端であり、それゆえの硬直化です。新しい顧客層に向けた仕様変更も、馴染みの顧客への配慮も、どちらも中途半端に終わってしまうのです。

 収益力を上げていくには、取捨選択がどうしても必要です。値上げによって離れていくお客様が出るということは、裏を返せば、望む顧客を迎え入れるための器が空くということでもあります。

 既存顧客への値上げは、関係を断ち切る行為ではありません。関係を更新する行為です。

 日頃から漸進的変化を共に歩んできたお客様は、新しい価値と新しい価格を、むしろ前向きに受け止めてくれるはずです。そうして残ってくださるお客様とは、これまで以上に深い関係を築いていけるのです。

 厚利安定への道は、馴染みのお客様を切り捨てることから始まるのではありません。お客様と共に変わっていくことから始まるのです。

 あなたの会社は、既存顧客との関係を「いつもの」のまま止めていませんか。それとも、自ら小さな変化を起こし、お客様と共に関係を更新し続けているでしょうか。

著:白井康嗣

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・第59号:高価格化していく恐怖の正体と克服法 https://polyphonia-consulting.com/20251030-2/
・第95号:「削る決断」ができない経営者が、薄利多忙から抜け出せない理由 https://polyphonia-consulting.com/no-95/
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白井康嗣

この記事の執筆者:白井康嗣

株式会社ポリフォニアコンサルティング代表。200社以上の中小企業を厚利安定型ビジネスへ導いてきた経営コンサルタント。著書に『中小企業のためのワンダーランド型ビジネスで儲ける法』。金融機関でのセミナー登壇実績多数。詳しいプロフィールはこちら

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