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第106号:似たものを安く売る相手が現れたとき、会社の本当の強さが試される

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「シライ先生、10年うちで働いてくれた社員が独立しまして。それはいいんですが、うちの主力製品とそっくりのものを、1割ほど安く売り始めたんです。お客さんからも『あっちと何が違うの?』と聞かれるようになって・・・」こう仰るのは、製造販売業を営むH社長です。

 H社は数年前から、価格の見直しに取り組んでこられました。素材の選び方から仕上げの工程まで、自社のこだわりを一つひとつ掘り起こし、それを価格に反映させてきたのです。

 その甲斐あって、値上げ後も受注は落ちず、むしろ「H社の製品だから」と指名で来られるお客様が増えていました。厚利安定への道筋が、ようやく見え始めていた矢先の出来事です。

 元社員の会社は、H社からさほど遠くない場所にあります。製品の雰囲気も、仕上がりの風合いも、H社のそれによく似ています。そして価格は、H社の1割安。

 H社長ご自身も、内心は穏やかではありませんでした。手塩にかけて育てた社員が、自社のやり方を下敷きにして、それを安く売っている。悔しさと焦りが入り混じった、何とも言えない心境だったといいます。

 社内の会議では、早速いくつかの声が上がったそうです。「1割くらいなら、主力の製品だけでも下げてはどうか」「あちらとの違いを比較表にして、お客様にお見せしてはどうか」――。

 いずれも、会社を守ろうとする真剣な声です。しかしハッキリ申し上げれば、どちらも打ってはならない手なのです。

 まず、比較で自社を語ること。これは一見、自社の優位性を示す前向きな行動に見えます。しかし比較表を作った瞬間、お客様の頭の中には「同じようなものを作る会社が二つある」という図式ができあがります。

 価格を決めるのは、突き詰めれば需要と供給のバランスです。「ここにしかない」と思われているうちは、供給者は自社一社です。だからこそ、価格の主導権を握れるのです。

 比較で語るということは、自社が築いてきた独自市場の中に、もう一人の供給者がいることを、自ら認めて宣伝しているのと同じことです。

 しかも、比較の影響はお客様の側だけにとどまりません。比較表を作れば、社員もまた、相手を物差しにして自社を見るようになります。

「あちらより丈夫です」「あちらより丁寧です」――。そうした説明を繰り返すうちに、自社の価値は「相手よりどれだけ上か」でしか語れなくなっていきます。自社が何のために、誰のために、その製品を作っているのか。その一番大切な話が、いつの間にか抜け落ちてしまうのです。

 では、値下げで対抗するのはどうか。こちらは数字構造を見れば、結論は明らかです。

 仮に粗利率50%の製品があるとします。10万円で売れば、粗利は5万円です。これを1割下げて9万円にすると、原価が変わらない限り、粗利は4万円に落ちます。

 値下げ幅は1割でも、粗利は2割減るのです。元の粗利の総額を取り戻すには、販売量を2割5分も増やさなければなりません。

「たかが1割」の値下げが、実は「2割5分の増産」を会社に背負わせる。これが数字構造の現実です。

 手間をかけて一つひとつ仕上げてきた自社の仕事で、生産量を2割5分増やす。人も設備も今のままでは回りません。それは事業のカタチそのものを、量で稼ぐ多売型に作り替えることを意味します。H社がこれまで積み上げてきたものを、自らの手で崩すことに他なりません。

 しかも、一度下げた価格は、相手がさらに下げてくれば、また下げざるを得なくなります。1割で済む保証は、どこにもないのです。

 こうお伝えすると、「では、お客様が流れていくのを黙って見ていろというのか」という声が、聞こえてくるようです。

 そうではありません。見る場所を変えていただきたいのです。

 模倣者は、一体何を真似たのでしょうか。お客様の目に見える製品の形と、仕上がりと、価格です。しかし、真似できないものがあります。その製品を、その品質で、その価格で作り続けるための仕組みです。

 人気店の看板メニューを真似た店は、見た目も味も、それなりに再現できるでしょう。しかし、その味を毎日、同じ人手で、利益を残しながら出し続ける仕組みまでは写し取れません。

 H社と同じ手間をかけながら1割安く売れば、その分、利幅は確実に薄くなります。いずれ手間を削るか、数を追うか、どこかで無理が生じます。見た目がどれほど似ていても、長く続けられる構造にはなっていないのです。

 もう一つ、見方を変えていただきたいことがあります。模倣者が現れたということは、そこに真似したくなるほどの市場ができつつある、という証拠でもあるのです。誰も見向きもしない事業を、わざわざ真似する人はいません。

 残念ながら、模倣者の登場をきっかけに崩れていく会社は少なくありません。しかしその多くは、相手の力に屈したのではありません。慌てて値札を書き換え、自ら比較の土俵に降りていった、その一手で自滅しているのです。

 ではどうすればよいか。答えは明快です。価格を守り、その価格に見合う価値を、模倣者の手が届かない先へと進め続けることです。

 価格を守るといっても、何もせずに今の値札を据え置くことではありません。価格は、お客様が受け取る価値の裏返しです。価格を守るとは、その価格の裏付けとなる価値を、自ら更新し続けることに他なりません。

 模倣者が真似できるのは、いつも「今、目に見えているもの」です。であれば、自社は常にその一歩先を歩いていればよいのです。昨年と今年、今年と来年で、自社の価値が少しずつ、しかし確実に深まっていく。その積み重ねがある限り、模倣者が手にするのは、いつも自社の過去の姿にすぎません。

 H社長は、値下げ案を見送りました。代わりに取り組んだのは、自社がお客様に何をお約束しているのかを、改めて言葉にすることでした。そして、それをお客様に直接伝える機会を、意図して増やしていったのです。

「あちらとの違いは?」と聞かれても、比較では答えない。自社が何をお約束しているのかを語る。その方針を、社員とも共有しました。あわせて、次にどの方向へ価値を磨いていくのかを定め、そのための取り組みを計画に組み込んでいきました。

「相手のことばかり見ていたら、自分たちの仕事の話ができなくなっていました」とH社長は振り返ります。

 模倣者の登場を止めることはできません。しかし、模倣者が自社の背中を追いかけている間に、次の一歩を踏み出しておくことはできます。漸進的変化を続ける会社に、模倣者が追いつくことはないのです。

 あなたの会社は、似たものを安く売る相手が現れたとき、その相手を物差しにして自社を語っていませんか。それとも、自社の価値と価格を、自らの手で握り続けているでしょうか。

著:白井康嗣

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この記事の執筆者:白井康嗣

株式会社ポリフォニアコンサルティング代表。200社以上の中小企業を厚利安定型ビジネスへ導いてきた経営コンサルタント。著書に『中小企業のためのワンダーランド型ビジネスで儲ける法』。金融機関でのセミナー登壇実績多数。詳しいプロフィールはこちら

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