第104号:現場が疲弊し、離職と採用コストが増えてしまう・・その原因は「普及価格」にあり

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「シライ先生、現場が疲弊しています。これ以上仕事を受けると回り切らないかもしれません。」こうおっしゃるのはサービス業を営むS社長です。
S社長は、数年前に弊社のコンサルティングをお受けになりました。それ以来、業績そのものは極めて順調です。
目標として掲げていた年商20億円を、3年も前倒しで達成されました。受注も稼働も計画を上回る盛況ぶりで、傍目には事業は何一つ問題がないように映ります。
しかしS社長には、誰にも言えない悩みがあります。現場社員の対応力が追いつかない。管理者の顧客対応負担が限界に近い。そして極めつけは、人材採用費がかさみ、せっかくの利益を吹き飛ばしていく――。
売上の順調さとは裏腹に、S社はいま三重苦に苦しんでいたのです。
受注も稼働も、数字だけを見れば申し分ありません。稼働率換算をすれば、すでに90%を超えています。しかしその実態は、現場が疲弊した末の低利益です。
今のS社は、残念ながら経営として最も宜しくない状態、「薄利多忙」に陥っているのです。稼働率90%を超えてなお三重苦が解消されない――この原因は、一体どこにあるのか。
多くの薄利多忙経営者は、こう考えます。社員教育がなっていない。管理者のレベルが低い。職場環境に問題がある―。いずれも、間違いではないでしょう。しかしその奥にある、もっと根本的な問題に気づいていません。それは「価格設定」です。
価格設定と社内体制に、一体何の関係があるのか?そう思われるかもしれませんが、これは大いに関係があります。
中途半端な価格設定は、顧客をバラつかせ、提供価値をバラつかせ、顧客からの要求を過剰に増やし、結果として現場の職務難易度を著しく高くしているのです。
高価格化していく大きな目的の一つは、「顧客を揃える」ことにあります。顧客を揃えるとは、自社が顧客に対して約束すること、そしてそのために顧客が従うべきルール、この二つを顧客の大半が理解している状態のことです。
これは、ほぼノーコストで利用できる公共サービスと、高級ブランド店のあり方を比較すると、よく分かります。誰でも使えるサービスほど、顧客からの要求は膨大になります。当然のことです。誰でも使えるからです。
一方、高級ブランド店では、敷居をまたいだ瞬間、顧客はブランドを体験すると同時に、ブランドの掟に従わなければならなくなります。その場のルールに従えなければ、そのブランドのファミリーではいられないのです。
ご存じの方も多いと思いますが、ある外資系の高級ホテルでは、スタッフ一人ひとりが顧客対応のための予算を自ら持ち、その裁量で個別のサービスを実施してよいことになっています。
お金の使い方にまで裁量を持たせるということは、究極の権限移譲です。そしてそれは、現場社員に高い判断能力とスキルが備わっていることの証左でもあります。
こうお伝えすると、「そんな権限移譲ができる会社は限られている」という声が、聞こえてくるようです。しかし、なぜこれが仕組みとして回り、普通の会社では回らないのか?
現場社員への予算配分と権限移譲という表面だけを切り取ると、本質を見誤ります。本質は、「顧客が揃っているから」に他なりません。
自社が顧客に約束すること、そのために顧客が従うべきルール、これに対して高価格を支払うことで、顧客側がコミットしているのです。
見方を変えれば、会社側が提供価値に裏付けられた価格設定を用いることで、顧客のコミットを揃えているのです。そしてそれは、社員に対しても共通のコミットを生み出しています。
だからこそ、現場には過剰な要求、自社にそぐわない要求が少ないのです。仕事量が少ないのではありません。仕事の目標と内容がスッキリしているのです。
有象無象の要求も、それを捌くための有象無象の業務もないのです。ゆえに現場社員の判断は的確で速く、その対応は顧客が期待する水準を超えていくのです。
現場の稼働率が90%を超えている状態で顧客が揃っていなければ、多大な要求が管理者のもとに溢れかえっているはずです。現場社員はその要求に応えるために力を分散させ、混乱すること必至です。
そうした多大で多様な要求をこなす「スキル」を現場社員に求めるということは、並の給与しか払っていない社員に、スーパーマンのような能力を求めていることと同じなのです。
誰でも利用できる立て付けのサービスに入ってきた顧客全員に、最高の満足で応えるなどという業務設計は、どだい不可能な話です。例の高級ホテルにだってできない相談でしょう。
顧客を揃え、顧客への約束を遂行するために業務を設計し、その範囲に人を集中させる。これが、薄利多売の対極にある厚利安定の姿です。
価格を変えれば、一時的に稼働は落ちるかもしれません。しかし本来、90%以上も稼働があってギリギリ黒字を出せる、という構造自体が問題なのです。それでは、多少の景気変動であっという間に赤字転落です。
そうではなく、80%の稼働でも十分に利益が出せる、現場にゆとりがあって顧客が満足する、そういう価格設定をしていくべきなのです。
繰り返します。価格が提供価値を決め、顧客を揃え、業務の方向性を明確にし、現場社員の力と判断軸を一点に集中させる。その結果として、現場の物理的負担と判断コストが軽減され、より高い現場対応力が生み出されるのです。
あなたは、これからも現場の混乱と疲弊を、現場の責任にし続けますか。それとも、事業の土台を厚利安定型に再設計しますか。
著:白井康嗣
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